宅建士として活躍したい学生へ
宅地建物取引の仕事を選んだ理由
私の就職期は、折からのバブル時代でした。不動産、建設、金融といった業界は脚光を浴びていました。不動産の値段がどんどん上がっていき、バブル期なので景気が爆裂し始めていました。皆さんはご存知ないと思いますが、夢のように景気がいい時期だったんです。
その中で、不動産は悪徳と言われる、筋のよろしくない業者もたくさんありました。また、親戚には「不動産を取られた」という話もあり、やはり「怖い業界だから親戚筋に一人ぐらいその方面に強い人がいたほうがいいだろう」という気持ちがありました。地主さんは一族の中で誰か一人不動産業をやっていたりするものです。なので「詳しい人間がいれば、親族が大きな失敗や憂き目に遭うこともないだろう」ということで興味を持ちました。
不動産業界に就職した結果、職務上必須だということで宅建を取得しました。不動産売買契約に必須である「重要事項の説明」は、宅地建物取引士でないとできません。つまり、専業があるということですね。お客さんは、名刺に宅地建物取引士が入っているかどうかを、気にして見ているので、必須だと思いますね。
不動産仲介は1件1件モノも違うし、買う人・売る人の条件が違うので、ケースバイケースばかりなんですね。例えば、新築マンションの分譲担当という「売り子さん」になると、似通った仕事を何度もやる感じになります。それに比べて、不動産仲介業では、売る人も買う人も物件も毎回毎回違うので、必然的に相談の裾野が広くなってこざるを得ない、そこがまた魅力であるかなと思いますね。
宅建合格のコツ
社内で勉強会が毎週あり、社内の所長クラスの方が教官でした。ところが電車遅延で2回遅刻したら、「講師(上司)も大変な思いをしているのに、遅れてくるというその精神は何だ!」と追い出されてしまいました。仕方がないので、自分で勉強をしました。最初はちんぷんかんぷんで途方にくれました。例えば、「善意(知らなかった)」「悪意(知っていた)」といった、法律用語の理解が全然分からないので、模試をしてもまともな点数は取れませんでした。けれど、問題を何度も繰り返すうちに、同じ間違いをする自分に気づいてくるんです。当時はひたすら過去問をやり、間違えたら問題集、というやり方をしていました。
後日談ですが、資格学校で宅建講師をしたときには、テクニックを教えていました。
試験範囲には「民法」「法令上の制限」「宅建業法」というものが主な分野です。民法は難しいですが、テクニック的には七割くらいは取れるように持って行かないといけません。次に、「法令上の制限」という分野も専門的で分かりにくいのですが、ここも七割ほど取れるようにする必要があります。
それに比べて「宅建業法」は、出題傾向が全く変わります。「民法」や「法令上の制限」は知識を計る問題の出し方をしますが、「宅建業法」は範囲が狭く、出てくる問題が毎回決まり切っているため、ひっかけ問題に傾向が変わります。どういうひっかけをしてくるかを見抜いて、9割は取れるようにする必要があります。ここまでしておけば、おおよそ合格点までは行くと思われます。
あと、長い期間の勉強になるので、息切れしないようにするのも作戦です。五、六月ぐらいで法律用語に慣れ、七月ぐらいで過去問の一周目が終わり、出来が半分いっていないのは普通だと思います。八月で二周目をやり、それで半分ぐらいできるかなと。九月になって、七割から八割できるところまで持って行く。「八、九月と十月の最初の10日間ぐらいが本当の勝負である」という意識をはじめから持っておくとよいでしょう。徐々に上がっていく感じで、1か月単位で目標を持つとよいですね。このやり方で個人指導にあたった後輩の合格率は100%です。
資格を取得できる、できないに関わらず、「宅建」というのは意義がある勉強だと思います。特に民法の知識というのは、実生活の中ではとても役立つ場面があるので、「自分が社会で生活していくために、無知で不利益を被ることがないようにする」ためには、宅建の勉強はいいと思います。
資格は入り口でしかなくて、そこからプロとして通用するようになるのは時間がかかります。大事なのは、やはり、「経験やキャリア」です。そして、「経験やキャリア」を与えてくれるのは「お客様」です。そういう点では、資格がなくてもキャリアがある人の方が、安全な不動産の仕事ができたりします。
FPへ転身した理由
不動産会社には10年半いました。入社した時から、お客さんにホントのことを言わないところが引っ掛かっていました。例えば、不動産の売却を依頼された場合、もっと高く売れる可能性があるのに、自社に来た購入希望者に優先して売るようにして、売り手と買い手両方から手数料を得られるように商談をまとめていくのです。業界用語では「両手」と言います。「ホントのことを言えない仕事というのは嘘つきじゃないか」との思いがどうしても湧いてきて、どうも不正直でかっこよくないと感じていました。「綺麗事ではやれないのが仕事だ」という教わり方もしていたので、「とりあえず一人前になってから文句を言わないと」と思い、3年くらいはやってみようと。
それから10年経って、中間管理職となり、トップクラスの営業成績を挙げ続けていました。けれど、入社した時に思った疑念を、10年経ってもおかしいと思っている自分がいるわけですよ。そうすると、「あと20年同じ思いをして仕事を続けるのはいかがなものか」と。それで、どうせやるなら「いかがなものか」と思わない環境で、不動産仲介業をやれないものだろうかと。つまり、「お客さんにホントのことを言える、嘘がない、隠しがない」そういう正直な仕事をしていきたいと思いました。
僕自身は業界の拝金主義的なスタンスには疑問を持っていましたが、宅地建物取引士としての業務においての嘘偽りはありませんでした。不動産の仕事自体は意義深く、世の中の役に立つ、必要とされている仕事であると実感していましたが、「そんな良い仕事を長く続けたくない」という気持ちになるのはおかしいと。「このよい仕事を長く続けたいと思える環境でやるべきだ」と考え、会社を辞めました。会社からは止められましたけれど。。
いえ、ないので、自分で創るしかないと思いました(笑)
当時一番のジレンマは、不動産の購入で迷って、「買ってもよいのか分からなくて心配なんです」という人に、説得力のある言葉がだせないことでした。「相場的に見て高くありませんよ。これを買わないと後悔しますよ」といった、裏付けのない営業を展開していくのが常でした。
そんな時、外資系生命保険会社のリクルート勧誘で、ライフプランと出会いました。ライフプランニングというのは、実際に家庭の収支を試算していくので、住宅ローンを本当に返せるかがバーッと見えるんですね。最初にキャッシュフローを見たときに、「これは不動産を購入してよいかの裏付けになる!」と感動しました。「このエッセンスを理想の不動産業をするためにぜひ取り入れたい!」と思い、その生命保険会社に転職し、3年間営業経験を積み、その後東京のFP会社立ち上げに参画しました。良いタイミングでよいフィールドと巡り会えました。
はい、今の仕事はFP(ファイナンシャルプランナー)です。取り扱っている仕事は不動産仲介業(不動産の取引)、保険や投資信託の販売です。今の仕事のスタイルは、お客様に全て本当のことを言えるので、全くストレスがありません(笑)。また、不動産購入希望のすべてのお客様にライフプランを提供しているのが、前の職場とは全然違う点です。ライフプランニングは時間がかかるので、その分一人のお客様にかける時間が長くなりますが、将来設計が見えているので、お客様が不安にならずに購入に進まれるため、返って効率が良いんです。こういう素晴らしい仕事のやり方があるということを、多くの不動産業者は知らずに、根拠のない苦しい説得を続けていると思います。
仕事と家庭の考え方
それは、メリットしかないと思うべきでしょうね。家庭を持つことは、自分を語る上での大きな武器になります。何故なら、不動産の仕事で言えば、家族と住むための家を探す方が多いのですね。「何故、家族と住む家が必要なのだろう」の第一歩は、自分が家族を持つことだと思います。仕事をするのは、食べていくためということもありますが、大体の人は家族のために仕事をしています。
また、自分の家庭を人に語るということは、信頼関係が一気に近づくいいチャンスだと思います。「自分には子どもがいます」「娘は〇歳で」「家内が○歳で、自分は○○に住んでいます」そういう話がたくさんできる人の方が、お客様との距離を縮めやすいんです。自分のことをたくさん伝えると、お客さんも自分のことを話してくれる。その瞬間、非常に良好な関係になり、「何かお願いするなら、あなたにお願いしたい」という風に人間関係が近づいていきます。そういう関係を作るには、「家族がいる」ということはとても武器になると思います。家族がいるだけではなくて、「家族のことを話せる」というのが大事ですね。
不動産業の未来
不動産仲介業の未来は、「顧客利益を尊重する」方向に向かうのは間違いないでしょう。更にそこに、他業種からの参入が増えてくると思います。そういうことが、業界の慣習を変えるのには非常にいい機会になるでしょう。「業界自体をかき回すような存在」が出てくる中で、「どういうポジションを確立したら、お客さんが来てくれるのか」を真剣に競うのが、本当の顧客主義になってくると思います。
「安全な取引」「納得できる取引」あるいは、「経済負担の心配がない様な合理的な購入計画」を提供するのが仲介業の本分です。そういうのがまだまだ足りないと思います。不動産の購入や売却について、「お客さんに、負担や不安や不透明感を与えない」ために、時間やお金が投資されていくべきだと思います。新しいチャンスの道を探るのが、産業の発展につながると信じたいですね。
学生へのメッセージ
そうですね、好きだと思える仕事に就けないとホントにつらいので、「興味が湧くものを見つける意識」というものは持った方がいいと思いますね。その「興味が湧くもの」が「仕事として通用するのか」、あるいは「自分が仕事としてできるものなのか」、一つひとつ街中を見わたしながら「これは興味あるな」「ないな」などを確認してほしいです。僕の場合は、いっぱいアルバイトをしました。「これは無理だ」というアルバイトもいっぱいありました。一方、「これは意外と面白いな」というのもありました。
「色んな仕事があるんだ」という目を持って、世の中を見ていくことが大事です。「今あの人は仕事中だな」と思う人を見かけたら、「その人は何の仕事をしているんだろう」とか。スーツを着るのも仕事の第一歩ですから、「スーツ着るのがとても嫌だ」という人は「スーツを着ない仕事」を探していくことになるでしょうし。最終的にはやはり、「長く続けられる仕事」「続けたいなと思える仕事」を見つける、もしくは、「長く続けられる仕事にアレンジしていく」みたいなね。
大抵の場合、会社に就職すれば「会社から与えられた仕事」をすることになります。その「与えられた仕事」というのは、「会社がやりなさいと言った仕事」であって、「自分がやりたいものと違う」という事は当たり前のようにあります。生意気だが、長く楽しく続けるためには「こういう仕事じゃないとだめだ」という風に思えるぐらいが良い。僕はそういう風な気持ちがあった。ただ、まだまだ半人前だからそんなエラそうなことを言ったって誰も聞いてくれないけど、いつかは仕事ができるようになるので、長く続けていくためには「こういう姿であったらいいな」というものを思えるような意識が大事です。
若い時は「こうでないとおかしい」という気持ちがいっぱいあった方がいいと思います。
「今ある姿が正しい世の中なんだ」と思ったら、「新しくて良いもの」は出てこないと思うので。「これは変だよ、おかしいよ!」という思いは、いつも持っていたほうがいいです。
そういう人が、きっと良いものを作っていく。仕事にしても仕組みにしても。自分の個性に合うことを見つけて、それが「人に支持されるかどうか」だと思います。ダメだったらやめて、また新しいことを考えればいいだけですから。